薬指の秘密はふたりきりで
「好きな人がいるんだ?」
「はい。います」
「じゃあ、いつかその人に、奥まで入れてもらえるといいね」
言った直後に、ああしまった、また言っちまったと顔を歪める田代さん。余計なこと言わなければ普通の会話なのに、可笑しな人だ。
ちょっぴりおかしくて和やかないい雰囲気の中、時々カメラ位置を変えながも撮影は滞りなく進んでいき、時間にして40分程度で終わった。
「はい!OKです!田代さんお疲れ様です!」
「はーい。お疲れっした!ありがとうございました!じゃ、佐倉さんまたどこかの撮影で会おうね!」
あちこちにお辞儀をしながら明るく言って、田代さんはスタジオから出て行った。
田代さんはパーツモデルだけでなくファッションモデルもしているのだそうで、このあと次の撮影現場まで行くのだという。
マネージャーさんがついた人気のモデルさんなのだ。
そんなお方に依頼するなんて、スタッフ側の今度のパンフレットにかける意気込みが伝わってくる。
「では、佐倉さん10分後に始めます」
「はい」
今度は、指輪をはめた状態で撮る。
二人で撮影したものは見開き内に大きく載るイメージで、今度撮るのは裏表紙に小さく載せるイメージらしい。
初めてだった二人撮影とは違って、いつものだから、慣れたもので緊張も少ない。
さらに照明が落とされて最低限の明りだけが点る暗いスタジオの中、用意してくれた椅子に座って休憩をする。
みんな外に出て行ってしまって、一人きりだ。