薬指の秘密はふたりきりで

スタジオの中には、セットの真ん中にある白い布を被せたテーブルだけが浮かび上がっている。

そこには、私が嵌める予定の指輪が乗っていた。

細かい彫金の入った凝ったデザインで、真ん中に小さなピンクダイヤが埋め込まれている。

これを、一人で嵌めて撮影するのだ。


赤いビロードのクッションの上にころんと転がってる指輪の輪郭を、そっと撫でる。


「ペアリングなのに“一人”なんて、現実そのままみたい・・・」


一つきりの結婚指輪が、これからの未来を表しているようで切なくなる。

ドアの開く音がして、誰かが入ってくる気配がしたので、慌てて目にたまった水分を拭った。

もう、撮影が始まるんだ。


けれど、近付いてくる足音は一つだけで、照明が点くこともなく暗いままだ。

疑問に思いながら目を向けると、ゆっくり近づいてくるシルエットに、光が届き始めた。

それは背が高くて、歩き方にもとても見覚えがあって、でもまさかそんなはずは――――


「・・・彩乃」

「どうして、いるの・・・?」


スーツを着た亮介が、そこに立っていた。

驚いている私を見て、ふわりと微笑む。


「それ、撮影用の指輪?」

「そう。今からこれを嵌めて撮るの」


用が済んで、撮影を見に来てくれたんだろうか。

亮介は指輪を拾い上げると、私の手をそっと握った。

その手から、普段にはない堅い感触が伝わってくる。


「俺が、嵌めてもいい?」

「え?」


思いがけない問いかけで、まじまじと亮介の顔を見つめてしまう。

亮介は、真摯な瞳を私に向けていた。


「俺が、彩乃の指に、嵌めたいんだ」

「――――はい。どうぞ」
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