薬指の秘密はふたりきりで



気のせいか、彼の瞳が潤んでいるように思える。

深呼吸を一つして落ち着いてから、しっかりと、彼と目を合わせた。


「はい。私がおばあちゃんになっても、ずっと、ずっと、亮介の隣にいさせてください。よろしくお願いします」


にこっと笑った瞬間、わっと歓声が上がって、拍手とクラッカーの音が鳴り響いた。

知らないうちに、撮影スタッフたちがスタジオに入っていたのだ。


「彩乃ー、感動したよー!」


涙と鼻水でくしゃくしゃな表情の冴美が、クラッカーの残骸を持ったまま抱きついてきた。


「冴美、いつからいたの?」

「長谷川さんが彩乃に指輪を嵌める辺りから」

「すいません、全部聞いちゃいました」


カメラマンまで、鼻水をすすりながらも笑ってる。


「もしかして、みんな知っていたの?」


みんなの顔を見廻すと、にこにこ笑って頷いてる。

亮介も、照れた表情をしている。


「実は、結婚は前々から考えていたんだ。いいタイミングが見つからないまま、ずるずると日が過ぎていた。そんなところに結婚指輪の撮影の話が彩乃に来て、悠木さんからもメッセージカードを頂いて、行動に移すことが出来たんだ。相手役がいるって聞いて、正直焦った。俺は、遅すぎたか、と。悪かった」

「ううん、いいの。とても素敵な日になったもの」


見つめ合ってると、カメラマンが遠慮がちに声をかけてきた。


「あのー、そろそろ、撮影を始めてもいいでしょうか」

「あ、すみません。亮介、ほら、あっちに―――」


照れもあって、わたわたと亮介の背中を押そうとすると、待って、と声が掛けられた。


「結婚指輪だろ。俺も、撮るんだ」


亮介の左手には同じデザインの指輪が嵌められていた。


そっか。一人じゃ、なかったんだ。冴美ったら。


自然に幸せな笑みが零れる。


「はい。始めまーす。長谷川さん、指輪が見えるように―――・・・」




そして、数日後。

送られてきたパンフレットには、重なり合う私たちの手が、大きく載せられていた。



fin
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