薬指の秘密はふたりきりで
「ねえ、聞いた?長谷川さん、今日帰ってくるんだって!」
「うそぉ、長引いてて、再来週くらいだって言ってたのに。帰ってくるの?」
「私誘っちゃおうかなぁ。お疲れ様です~、一緒に食事にいきませんか~?って!」
今私がいるのは、お昼時の社員食堂。
窓際の席で、総務課女子の塊が騒いでるのが聞こえてくる。
帰ってくること、もう知ってるんだ。流石情報が早い。
「あんたには無理無理。長谷川さん、どんな誘いにもなびかないって噂だもん」
うんうん、そうそう。亮介は星の数ほど誘われるけれど、絶対に乗らない。
堅い男って、上司からも言われてるくらいだもの。
「ね、まさかだけど。ひょっとしたら、女に興味ないとかかもよ?」
えー!?って声が、一斉に上がる。
私にはラッキーだけど、その誤解は、亮介がかわいそうすぎるかも。
だって、全然そんなことないんだもの。
ベッドの上でのあれやこれやは、とても情熱的で、女に興味がなかったら、あんな・・・って!!
やだやだ、私ったら。
昼間からなんてこと思い出してるの。
これは、亮介不足の影響かもしれない。
かーっと顔が熱くなる。
誤魔化すようにぶんぶんと頭を振っていたら、紗也香が怪訝そうな顔で聞いてきた。
「彩乃先輩、どうしたんですか?」
「あ、ごめん。何でもないの、気にしないで」
「ていうか、原因はあれですよね?総務課の連中てば煩いよ。長谷川さんにはちゃんと彼女がいるっていうのに、誘いに乗るわけないでしょうが。それに!女に興味ないって何よ!彩乃先輩、よく我慢できますね!」
内緒のヒソヒソ声のせいか、低くてドスが利いて聞こえて、かなり怖い。
フォークを握り締めてギロっと睨み付ける表情は、敵にはまわしたくない人だと思わせる。
でも、私の為に怒ってくれてるんだよね、有り難いと思う。
紗也香は、本当に、優しくていい子なのだ。