十日目の判決 -完-
私はスクールバッグを肩にかけて立ち上がった。
もう、話すことなんてない。
この場が、
椎名と一緒にいる空間が、
椎名と同じ空気を吸うことが、
たえられない。
「…待って!!!」
椎名は私の前へ来ると床に膝を付いた。
「…何するつもり。やめろ、バカにすんのも大概にしろ」
土下座しようなんて…させない。
土下座なんかさせない。
椎名は私の声を聞いて頭を下げるだけにとどまった。
浮気をした彼氏が、跪いて頭を下げた姿で目の前にいる。
不愉快。
「退け」
「いのっ!おれは…」
「聞こえなかったか、退け」
私の名前なんて気安く呼ぶな。
言い訳を聞いた所で私の答えは変わらない。
「もう二度としない!!絶対しない!!!」
「次は絶対ないからっ…」
あたりまえだ。
次があってたまるか。
一度、二度とかの問題じゃない。
次がないとか関係ない。
どうにもならないんだ。
「…はぁ」
最初でも
1回でも
ダメな領域に踏み込んだら、
おしまいだ。
そこから出ることはできない。
「次は絶対ないからって言うくらいなら、最初からするなってはなし。マジむり。」
「…っ、」
信用なんて簡単に出来なくなる。
君の言葉に説得力はない。
信じれるほうがすごい。
「俺、別れたく…」
「知らない。君の意見が通るとでも思ってる?私、そこまで甘くない。君の気持ちなんて知ったこっちゃない、結希と何したの?!私が先に帰ったからって…!!!」
自分でも声が荒くなっていくのがわかる。
怒鳴らずにはいられない。
淡々と話してたけど、もうムリ。
「結希はどうだった?気持ちよかった?私を裏切って楽しかった!?私を傷付けておもしろい!?」
「…っ、でも…おれは…」
「もう甘ったれたこと言うのやめろ、君がやったことはそういうことだ!!」
私は教室から出ようとする。
「触んなっ!!!」
私を引きとめようとした椎名の腕がピクッと動く。
「…俺、どうしたら…」
どうしたらって?そんなの決まってる。
「もう私に話しかけないで!!!!!顔も見たくない!!!!!」
私は人生で初めて、
人をこんなにも怒鳴りつけた。
私がここまで声を荒げて怒ったのは初めてだ。
教室から出て行く私を、
椎名はもう止めようとはしなかった。