絆の軌跡
深い霧のせいなのか。
これだけ先が見えない霧は久しぶりだった。
目を凝らしても見えるのは10m先くらい。
そのせいなのか。
謎の不安感を拭い去れないまま、小屋の横に隣接されている馬小屋へ向かう。
「おはよう、ルティナ」
声をかけると、漆黒の馬が顔を上げた。
今年三歳を迎えた愛馬、ルティナ。
父と母の馬の間に生まれ、その時から全ての世話を父に任された。
お陰で良く私になつき、いつも行動を共にしている。
この広い牧場では馬がいなければ作業が困難なのだ。
頭を押し付けてくるルティナを撫でて訳もなく安心感を得る。
しかし、心の霧は晴れない。
早く家に行こう。
馬小屋の角にある箱からクッションを取り出し、ルティナの背中にベルトで固定する。
手綱を取り付け小屋から出すと、足で地面を掻いた。
「今日もよろしくね」
そう言いながらルティナの背に飛び乗り、走らせた。