絆の軌跡



「あら、お父さんに?」


「はい、魔法とか文字とか薬作りとか色々教えてもらいました」


「教育熱心な良いお父さんですわね」



眼鏡の位置をそっと直して微笑む。


少し怖そうな第一印象だったが、間違っていたみたいだ。




保健室に着くと、沢山のベッドのうち一番奥のベッドに案内された。


ベッドはカーテンで一つ一つ仕切られるようになっていて、その中で制服に着替える。



マントや黒いシャツワンピを脱いで白いワイシャツに袖を通す。

お母さんからもらった物よりパリッとしていて落ち着かない。


普段とは違うキチンとした服に戸惑いつつ着替え終わると、カーテンを開ける。



「すみません…あってますか?」


「えぇ、似合っているわ」



間違った着方をしてないみたいで良かった。



制服はきっちりとはしているが、窮屈じゃなくて動きやすい。

ローブは前が脚のところだけ切れ目があって、歩くのに邪魔にならない。



「気に入りましたか?」


「はい、とっても」



ヘカテール先生は微笑むと、校則については教えてくれた。



制服の着こなし、時間厳守、酒、煙草…



覚えきれないほどの決まりがあることだけはわかった。



「…まぁ、生徒手帳に書いてあるのでよくお読みなさい。

あぁそれから、校内には立ち入り禁止区域があります。生徒は許可が無ければ入れません。

例えば湖の向こう側や隣の森、普段は立ち入り禁止です。」


「はい…生徒手帳って何ですか?」


「それは明日の朝お渡しします」



一息つくと、次は1日のタイムスケジュールや年間予定、学校の行事について語ってくれた。


中でも気になったのがテストだ。

1年間に3回テストがあって、そこで成績の順位が決まるのだそうだ。

テストの方法は教科によって違って、筆記か実技、もしくはその両方で点数を出す。


そして最初のテストが来月…そう、あと一ヶ月しかない。



「私は追い付けるでしょうか?」


「それは努力次第ですね。明日は現在の学力を見るために軽くテストをしましょう。

さぁ、夕食が届いたようですね。」


「?」



ヘカテール先生の視線につられて保健室の入り口を見ると、アーサー先生がバスケットを持って保険医と話していた。


先生がアーサー先生を呼ぶ。



「アーサー研修生!こちらです」


「あ、ヘカテール先生。お疲れ様です。後は俺が…」


「えぇ、お願いしますね。明日の朝、朝会に連れて行ってあげてください」


「はい。」



ヘカテール先生の背を見送ると、アーサー先生がバスケットをベッドの横にある小さな机に置いた。


良い匂いが辺りに拡がる。



「制服似合ってんな…あ、これしかなくて悪い」



そう言ってバスケットに掛けてある薄い布を取る。


中には骨付チキン、リゾット、サラダ、ガラスのボトルとマグカップが入っていた。



「俺も一緒に食うけどいいか?」


「はいっ、もちろんです!」



先生はそれらを全部出すと、マグカップに茶色くて白濁した飲み物を注いだ?



「?…それは何ですか?」


「え…あぁ、これはカフェオレだ。

コーヒーとミルクを混ぜたやつ。」


「へぇ…」



一口飲むとほろ苦く、少し甘いミルク。

そんな印象だ。


先生が嬉しそうな顔で飲んでいる。

カフェオレは先生の好物らしい。
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