血の雫
吸血鬼は不老不死のイメージがあるだろうけど。
吸血鬼だって死ぬ場合がある。
血を吸えなくなったら、吸血鬼はおしまいだ。
だから僕は、栄養が多い血を吸うため、人間界へと来たんじゃないか。
母さんのように、消滅しないために。
「記憶喪失ってことかなぁ?」
「キオクソウシツ……?」
聞いたことのない単語に、首を傾げる。
「記憶がないってこと。
ドロップくんは、自分の名前以外覚えていないんだよね」
覚えてはいる。
だけど、僕は人間じゃないから、言えないだけ。
意味はよくわからないけど、記憶喪失ってことで通すか。
早く血を吸って帰れば問題ないし?
「うん……」
「ひとまず、今日は休んで?
明日日曜日だから、病院へ行こう。
今日は遠慮なく、あたしの家に泊まってね」
「あ、ありがとうございます。
あと1つ、お願いがあるんですけど…」
「何?」
「カーテン、眩しいので、全部閉めてもらっても良いですか」
「眩しい?
まぁ夏の日差しは強いもんね。
良いよ、閉めておくね」
カーテンを閉めたため、真っ暗になる。
こっちの方が、心地良い。
「それじゃ、何かあったら呼んでね」
女が部屋を出て行き、僕は溜息をつく。
本当は早く吸って出て行きたいけど、今は体力がない。
首筋に噛みつく前に、あの女に殴られそうだ。
今日はひとまず、休むとするか。
僕は柔らかい枕に、頭を沈めた。