血の雫
「ご飯出来たから、食べられるようなら下りてきてもらえる?」
ご飯?
人間界でご飯なんて…前に降りた時にしか食べたことないや。
あの時作ってくれた人間界のご飯が、物凄く不味かったのを思いだした。
その出来事が少しトラウマになっているけど、お腹が空いたのは事実だから。
僕は頷いて、渋々だけどベッドから降りた。
先ほど感じた眩暈や、外で感じた暑さやダルさはない。
ご飯を食べて、この女が寝たら、さっさと血を吸って、元の世界に帰るとするか。
正直、血を吸うのは初めてに近いけど、なんとかなるでしょ!
「はい、どうぞ」
目の前に女が置いたのは、黄色い何かに赤いべっとりしたものがかかっている、不思議な物体だった。
人間は、こんなものを食べるのか……。
「オムライスだよ。
口に合うかわからないけど、どうぞ」
目の前でぱくぱく元気よく食べ進めていく女。
どうやら女の大好物らしい。
食べる姿は、幸せそうだ。
「……」
正直トラウマや「こんな得体の知れない物体を食べて良いのか」という感情が邪魔をするけど、僕はスプーンを手に取り、口へ運んだ。
ちなみに吸血鬼界で最も力を持つムーンライト家の出身の僕だから、銀食器は大丈夫なんだ。
僕らの世界で言うと下級、人間界でいうと農民の身分の人は、触れない人が殆どらしいけどね。
ムーンライト家は人間界でいう王様の階級だから、触れる人の方が多いんだよね。
まぁ吸血鬼界では使わないけど。