血の雫
その日の夜。
“おふろ”に入った僕は、濡れた髪を“ばすたおる”で拭いていた。
本当人間界には、わからないものが多いな。
吸血鬼は普段汚れないから、“おふろ”なんて入る習慣がない。
どれも貴重な体験だった。
「ドロップ、髪まだ濡れているね」
「そうみたいです……」
「ドライヤー使いなよ」
どらいやー?
また聞き慣れない単語だ。
先ほどから、聞き慣れない人間の言葉が溢れている。
“しゃんぷー”とか“りんす”とか、“しゃわー”とか“ゆぶね”とか。
わからない単語が出るごとにアキナを“おふろば”へと呼びつける。
アキナはトマトのように真っ赤に、片手で目元を塞ぎながら、“おふろば”で様々な単語の意味を教えてくれる。
“しゃんぷー”の後に“りんす”とか。
最後には必ず、“ゆぶね”に体をつけるんだとか。
…人間は毎日、こんなに面倒なことをしているのか……。
「どうやって使うんですか?」
「この赤いボタンを押して電源をいれるの。
その後、このレバーを動かして、温度を調節するんだよ」
「……?」
よくわからぬままブチッと赤いボタンを押す。
すると強い温風が、僕の額に直撃し、前髪が全部上がった。