血の雫








その日の夜。

“おふろ”に入った僕は、濡れた髪を“ばすたおる”で拭いていた。

本当人間界には、わからないものが多いな。

吸血鬼は普段汚れないから、“おふろ”なんて入る習慣がない。

どれも貴重な体験だった。





「ドロップ、髪まだ濡れているね」

「そうみたいです……」

「ドライヤー使いなよ」




どらいやー?

また聞き慣れない単語だ。

先ほどから、聞き慣れない人間の言葉が溢れている。

“しゃんぷー”とか“りんす”とか、“しゃわー”とか“ゆぶね”とか。

わからない単語が出るごとにアキナを“おふろば”へと呼びつける。

アキナはトマトのように真っ赤に、片手で目元を塞ぎながら、“おふろば”で様々な単語の意味を教えてくれる。

“しゃんぷー”の後に“りんす”とか。

最後には必ず、“ゆぶね”に体をつけるんだとか。

…人間は毎日、こんなに面倒なことをしているのか……。





「どうやって使うんですか?」

「この赤いボタンを押して電源をいれるの。
その後、このレバーを動かして、温度を調節するんだよ」

「……?」




よくわからぬままブチッと赤いボタンを押す。

すると強い温風が、僕の額に直撃し、前髪が全部上がった。






< 22 / 141 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop