血の雫
その日の夜。
「明日、病院行こうね」
「びょういん……」
「うん。
ドロップが記憶喪失かどうか確かめに行こう」
「わかりました……」
「じゃあ、おやすみ」
僕はアキナが部屋を出て行くのを見送った。
そして、アキナに気が付かれないように、アキナを追いかけた。
アキナは僕に気が付かないまま、扉を開けて、部屋へ入って行く。
扉の前に立つと、<秋奈の部屋>と書かれたプレートがぶら下がっていた。
ここが…アキナの部屋。
秋奈と書いて、アキナと読むんだ…。
僕はそっと、扉に右耳を当てた。
物音はしない。
アキナ、寝たのかな?
さすがに中を見ることは出来ないから、僕は再び僕に用意された部屋へ向かう。
寝るわけじゃない。
世界が闇に覆われ、僕たち吸血鬼が動き出す時間―――夜を待つためだ。
アキナ、ありがとう。
悪いけど、僕らはここでお別れだ。
アキナの血を吸う。
それが人間界へ送りこまれた僕…吸血鬼の使命だから。
僕は早く、自分の世界に帰りたいんだ。
人間なんて言う恐ろしい生き物と暮らせないから。
さようなら。
アキナ。