血の雫








その日の夜。





「明日、病院行こうね」

「びょういん……」

「うん。
ドロップが記憶喪失かどうか確かめに行こう」

「わかりました……」

「じゃあ、おやすみ」




僕はアキナが部屋を出て行くのを見送った。

そして、アキナに気が付かれないように、アキナを追いかけた。





アキナは僕に気が付かないまま、扉を開けて、部屋へ入って行く。

扉の前に立つと、<秋奈の部屋>と書かれたプレートがぶら下がっていた。

ここが…アキナの部屋。

秋奈と書いて、アキナと読むんだ…。

僕はそっと、扉に右耳を当てた。





物音はしない。

アキナ、寝たのかな?

さすがに中を見ることは出来ないから、僕は再び僕に用意された部屋へ向かう。

寝るわけじゃない。

世界が闇に覆われ、僕たち吸血鬼が動き出す時間―――夜を待つためだ。





アキナ、ありがとう。

悪いけど、僕らはここでお別れだ。



アキナの血を吸う。

それが人間界へ送りこまれた僕…吸血鬼の使命だから。

僕は早く、自分の世界に帰りたいんだ。

人間なんて言う恐ろしい生き物と暮らせないから。



さようなら。

アキナ。








< 25 / 141 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop