血の雫
これから僕に噛まれることを知らないアキナは、穏やかそうな笑みを浮かべながら寝ている。
…呑気なものだ。
僕は普段大きく口を開けないで隠している、2つの鋭く尖った牙を見せた笑みを浮かべた。
悪いね、アキナ。
アキナは何も悪くないんだ。
むしろアキナには感謝しているよ。
でも、これが掟だから。
逆らえない運命だから。
アキナが人間で、僕はその血を吸う吸血鬼だから。
しょうがないことなんだよ。
僕はそっとしゃがみ込み、見えているアキナの首筋向けて、そっと牙を剥きだしにした。
『ドロップ!』
『大丈夫?』
ふと、アキナの笑顔が浮かんだ。
僕は咄嗟に、アキナから離れる。
僕は一体、何をしている?
しょうがないから、吸わないといけないんだよ?
何で躊躇っている?
躊躇うことなんて、何一つないじゃないか。
ただアキナの笑顔が浮かんだだけで。
僕はアキナの首に牙を立てることに、恐怖心が湧いたんだ。