血の雫
躊躇ってはいけない。
僕はムーンライト家を継ぐ身。
血を吸うのを躊躇っていては、当主は継げない。
僕にキョウダイは存在しないから、継げるのは僕だけ。
吸血鬼界を保っていると言っても、過言ではないムーンライト家の当主になるんだ。
でも、怖い。
アキナを傷つけてしまうのが、怖い。
躊躇いは無用なのに。
躊躇う方が、吸血鬼としてはどうかしてる。
…何で、恐怖心なんて湧くんだ。
「……ん」
ふと、アキナが呟いた。
僕は急いで口元を両手で覆った。
しかしアキナは起きることなく、再び穏やかな寝息をたてはじめた。
僕は溜息をついた。
駄目だ。
躊躇ったり、起きるのではないかとビクビクしているままじゃ、いつまでたっても吸えない。
今日は、一旦やめよう。
今度、また挑戦しよう。
僕は再び浮き上がると、自分の部屋に戻った。
正確に言えば、僕が借りている部屋だけど。