血の雫
あたしの傍にかっこいいドロップがいるのは、本当奇跡に近い。
親しい友人も、家族もいないあたしにとっては、初めて深く関わる存在だ。
両親はいるけど、あたしが物心つくぐらいから仕事仕事っていう人たちだったから。
普通の家族が行く遊園地とか水族館とか旅行とか、あたしには程遠い世界だった。
そんなあたしの近くにいる、ドロップ。
記憶喪失だというけれど…。
きっとドロップにも、仲の良い家族や友人、恋人だっているはずだ。
その人たちは、今どうしているんだろうか?
きっと夜も眠れない思いで、ドロップの帰りを待っているのだろうか?
いずれドロップは、記憶を取り戻す。
記憶が戻ったのなら自分の家へ帰るだろうから、あたしとはお別れだ。
そうしたらあたしは、また一人ぼっちでいくつもの夜を越すのだろうか?
記憶が戻ってほしいと思うけど。
戻ってほしくないと思うのも、本音だった。
ドロップに、いつまでも傍にいてほしい。
一体どこの誰かもわからないドロップに、あたしは絶大な信頼を寄せていた。
まだ、ドロップと過ごし始めて1週間も経っていないのに。
…寂しいなんて、行ってほしくないなんて、思うけど。
それは絶対、口に出してはならない。
ドロップにはドロップの、生活があるのだから。
記憶を戻したのなら、笑顔で見送れるようにならないと。
短い時間で良い。
特別な思い出なんていらない。
だから今だけは。
ドロップの、傍に…いさせて。