血の雫
「だけど、ムーンライト家の吸血鬼が死ぬのは困るんだ。
わかっているだろう?お前も」
わかっているさ。
ムーンライト家が、この吸血鬼界に必要な家柄だと。
そんなムーンライト家の次期当主になる僕が、血が吸えないなんて吸血鬼界の住人に知られたら…。
僕は吸血鬼界にいられなくなる。
「お前も辛い思いをしたまま当主になるのは嫌だろ。
人間界に行って、そのトラウマを忘れて来い」
「……」
「その方が母さんも喜ぶだろ」
僕は立ち上がる。
「わかったよ。行ってくる」
「そうか!
荷物はもう整えてあるぞ」
サッと目の前に鞄を置かれる。
人間界でもよく使われるという、キャリーバッグだ。
「早ッ!?」
「行って来い!
気をつけてな―――!!」
…何だか上手く、父さんに丸め込まれた気がするけど。
しょうがない。
もう行くって言ったんだから、行かないと。
ムーンライト家のことは父さんや執事たちがやってくれるだろ。
僕は人間界へと通じる扉へ向かった。