血の雫







僕は自分の口元を、アキナの首筋から離した。




何しているんだ、僕は。

早く食い込ませれば良い。

それで血を吸えば、僕は帰れる。

一瞬の出来事で、すぐに終わる。




なのに、何で。

どうして僕は、





アキナの首に、

傷をつけたくないと思う?





吸血鬼失格だ。

血を吸うのを躊躇う吸血鬼なんて、聞いたことがない。

これじゃあ血が吸えずに亡くなった、僕の母親と同じ結末じゃないか。




母さんは亡くなって、多くの吸血鬼から非難を浴びた。

不老不死が吸血によって約束されている吸血鬼が死ぬなんて、あり得ないことだったから。

母さんが亡くなったことは、吸血鬼界にすぐに広まった。



血を吸わずに亡くなるなんて、信じられない。

血を吸えば、不老不死で死ぬこともなかったのに。

吸血鬼界の住民が、母さんを徹底的に避難した。




…僕のせいで。

僕のせいで、母さんは亡くなったんだ。

それなのに僕は、黙って母さんの悪口を言う吸血鬼たちを、見ていたんだ。








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