血の雫
でも、僕は知らなかったんだ。
普段僕らが何気なく過ごしている“当たり前”の生活は、儚く脆い存在だということを。
その日、家庭科の授業で裁縫をしていた。
裁縫なんてするのは初めてだから、僕は慣れない手つきでクッションを作っていた。
キットの中に入っていた作り方を見ても、ちんぷんかんぷん。
僕は前に座るアキナを呼んだ。
「アキナ。
作り方教えてくれない?」
「良いわよ」
幼い頃から裁縫に慣れ親しんできたアキナは、家庭科の先生に褒められるほどの裁縫の実力を持っていた。
僕が転入してくるまでアキナに全く話しかけなかった女子も、裁縫の時間の度にアキナに手助けを頼んでいるほどだ。
「ここなんだけど―――…」
「どれどれ?
あー、ここならやってあげるね」
「ありがとう」
布と裁縫針をアキナへ手渡す。
アキナは慣れた手つきで、布同士をくっつけていった。
「……痛っ!」
裁縫に夢中になり静かになっている教室に、アキナの声が響いた。
先生は今針を取りに家庭科室に行っている。