血の雫
思う存分泣いて空を見上げると、空はもうオレンジ色に染まっていた。
いつかアキナと坂道の上で見た、あの夕焼け空だった。
「……教室、戻らないと」
授業は終わっただろうし、教室には誰もいないだろう。
僕は重い腰を上げて立ちあがった。
今日の夜、アキナが寝た頃に家に入って、荷物を持って帰るか。
僕の手には、父さんが変化したカラスの羽根が握られていた。
この羽根を持って願えば、吸血鬼界へ続く道が現れるんだ。
父さんからのお許しも出たし…僕は帰るとするか。
元々僕は、人間じゃないんだ。
見た目は人間っぽいかもしれないけど、中身や性質は全く違う。
父さんのように動物に変化することも出来るし、自分の体も浮かせることが出来るし、シャーペンを動かしてテストを解くことだって出来る。
人間と違うんだ。
仲良くなれるって思っていたこと自体が間違っていたんだよ。
僕、知っていたじゃないか。
かつて人間界で“あの子”にされたことを。
同じ目に合う前に、帰った方が良いな。
僕はムーンライト家の次期当主なのだから、人間界に居座るわけにもいかないしね。
アキナにはアキナの住むべき世界があるように。
僕には僕の住むべき世界があるんだ。