いつも君の隣に居たかった
私は声を振り絞って先生に伝えた。
主人には伝えたくはないと、病気の事は私一人の胸の内に閉まっておきたいと。
先生は何も言わなかった。
言えなかったのかも知れない。
でも分かりました、と言ってくれた先生にホッとした。
この半年の間に私が彼に対して遺せるものはあるのだろうか?
一人遺される彼が寂しくないように。
一人でもこれから生きて行けるように。

遺したい。私に出来る形で…

診察室を出て薬を貰い病院を後にする。
帰りの車の中で、いきなり私の携帯が音を出した。
びっくりしてカバンの中を探して携帯を手に取った瞬間固まる。
彼からだった。
震える指先で携帯を押して耳に当てる。

彼の声が耳に響いた。
大丈夫だったのか?病院行ったのか?と聞いてくる彼に、行ったよと返答してただの胃潰瘍だったと告げた。

良かった。

彼のホッとしたような声色が胸に響く。
ズキッと胸に痛みが走った。
嘘を付いた事はこれが始めてだった。
余りに残酷な嘘と悲しい真実が背中合わせにある。
酷い事を私はしているんだろう。
でも私から真実を告げる勇気は今は無かった。
彼と会話をして電話を切った瞬間、私は泣いていた。
ごめんなさいと呟いてハンドルに顔を付けて一人声を出して泣いていた。
誰か真実を告げる勇気を下さい。
暖かいあの笑顔を曇らせたくなくて、付いた嘘は罪でしょうか?
愛する人を悲しませる現実から私は逃れたくて必死に一人で泣いた。
彼に泣き顔なんて見せられないから…

後半年私に残された生きる時間がスタートした瞬間だった
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