イジワルな先輩との甘い事情


『先輩が好きだから』と言った私に、古川さんは少し黙ってから『口だけなら……なんとでも言えるものね』と吐き捨てるように言って。

『別にもういいわ。北澤さんも……思ってたよりつまらない男だったし』

そう、続けた。
言われた言葉が信じられなくて、理解するまでに時間がかかった。

だって、先輩を好きだって言ってたくせに、常務に頼み込んでまで近づきたかったくせに、そんな事言うなんて、信じられなくて……頭にきて。
だけど、そんな言い方ないって言おうとした時、後ろから口を塞がれた。

『期待に応えられなくてごめんね』

驚く間もなく聞こえてきた声に、すぐ先輩だって分かって黙ると、先輩は私ににこりと微笑んで口を押えていた手を離した。
そして、古川さんに視線を移して。

『古川常務にも伝えておくよ。俺の事、お気に召さなかったみたいだったって。
きっと古川常務も安心するだろうね』

笑顔のまま続けた。
その笑顔が、いつもの柔らかいものとは違った気がしたのは……私の気のせいじゃないと思う。

『古川常務は普通なら一般社員に頭を下げる立場の人じゃない。
なのに、君に頼まれたからって、俺なんかに頭を下げて……そんな常務の気持ちも分からず全部をまだ常務の責任にするなんて聞いて呆れるよ』


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