イジワルな先輩との甘い事情
穏やかな口調のまま、にこやかな表情のまま告げられた言葉に、古川さんはぐっと押し黙るしかできないみたいだった。
そんな古川さんを見た先輩は、思い出したように『ああ、そうだ』と微笑んで。
『言っておくけど、俺が君を適当に扱わなかったのは、常務に頼まれてたからだ。
あと、下手に気分を損ねられると君みたいなタイプは花奈に何かするだろうと思ったから、そうならないようにって優しくしただけだよ。
申し訳ないけど、そこに君への好意はひとつもなかった』
そう告げた。
『嘘……私への態度、全部……?』
ショックを顔一杯に浮かべた古川さんを見て、やっぱりさっきの〝つまらない男だったし〟なんて言葉は強がりだったんだって気づいたら、先輩に、もういいからって止めたくなったけど……。
見上げた先にあった、先輩の横顔に……言葉が出なくなった。
『そう、全部』と、冷たい笑みを浮かべる先輩に驚いてしまって。
『全部……?』
『でももう関係ないけどね。
どんなに言葉を選んで丁寧に断っても、結局気に入らなければこうして花奈に突っかかってくるって分かったから。
常務にも伝えておくよ。融資管理課の資料を持ち出した事も含めてね』
先輩は微笑んでいるのに……その奥の冷たさが見えてしまい、強い違和感を覚えた。
まるで、別人みたいに思えて。