イジワルな先輩との甘い事情
会社からは少し離れた場所で、ここは先輩のマンションと駅との分岐点だ。
もしかしたら待っていてくれたのかなと思いながら、先輩の下に駆け寄った。
「お疲れ様です」と挨拶すると、にこっと微笑んだ先輩が視線を松田に移す。
私の隣に並んで「お疲れ様です」と軽い会釈をした松田に、先輩が「お疲れ様」と返した後、眉を寄せて申し訳なさそうに笑う。
「この間は花奈を慰めてくれたみたいで……」
「あー、その話なら柴崎から聞いたんで大丈夫です。上手くいったみたいで安心しました」
先輩の言葉を遮って言った松田が続ける。
「まぁ、そんな詳しくは聞いてないんですけど、柴崎、あれから本当に嬉しそうな顔して笑ってるから。それ見て安心しました。
こいつ、北澤さんと付き合ってからずっと微妙な笑顔しかしてなかったから」
「微妙……?」と、顔をしかめると、松田が「微妙だったろー」って私を見て笑う。
「必死に笑ってる、みたいな顔してて、俺それ見るたびにトラウマ思い出してたもん。
俺もそうだったなーって。だからなんか、放っておけなくて上手くいってくんねーかなっていっつも思ってた」
トラウマが、過去の松田の恋愛を指しているんだと気づいて黙ると、先輩に視線を移した松田がニッと口の端を上げる。