イジワルな先輩との甘い事情


「でも、あの時、俺から柴崎を奪った北澤さん見て、ああ心配いらねーやって分かりました。
俺に食ってかかるとか、相当周り見えなくなってるんだって分かったから、それだけ柴崎の事大事にしてるんだって安心しました」

どういう意味だろうと分からなくて、先輩を見上げてみたけど……先輩は苦笑いを浮かべて松田を見るだけで、教えてくれる様子はなかった。
そんな先輩に代わって、松田が「つまり」と教えてくれる。

「北澤さんくらい頭のキレる人ならさ、あんな風に俺にわざわざ絡まなくったって、もっとスムーズにかわせたハズなんだよ。
俺だって同じ社内の人間だし、普段の北澤さんなら揉め事は面倒だって判断して穏便に終わらせるハズなのに……あの時は違った」

説明されて、そういえば確かに……と思う。

『松田くんだっけ。松田くんはさ、絶対に裏切らない従順なペットが欲しいだけでしょ。
過去に裏切られてトラウマを抱えてるって話だけど、君を慰める道具に花奈を利用するのはやめて欲しい』

あの時は頭がぼんやりしていてあまり考えられなかったけど、ああいう先輩は珍しい。
いつも笑顔で何でもかわす人なのに、あの時は敵意までいかないけど、それに近い感情をむき出しにしていたから、どうしたんだろうなと頭のどこかで考えていた事を思い出す。

「柴崎が絡んでるから、らしさをなくしてるんだって分かったから、あの時から俺、全然心配してなかった。
ね、そうでしょ? 北澤さん」


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