イジワルな先輩との甘い事情


ニカって笑顔で聞いた松田に、先輩はバツが悪そうに眉を寄せて笑いながら「どうかな」ってはぐらかす。
だけど、否定はしていなくて……そんな先輩に、嬉しいから笑いたいのに同時に泣きたいような、おかしな顔になってしまう。

「なんだ、その顔」

それをしっかり見ていた松田が笑うから、「うるさい」って軽くぶとうとして、くんっとその手を引かれた。
松田の胸を叩こうとしていたのをそのまま引かれて、松田の胸に飛び込む形になる。
驚いて咄嗟に顔を上げると……すぐ傍に松田の顔があって――。

「松――」

松田を呼ぼうとした声が、何かに塞がれた。
口を塞ぐそれが先輩の手だって気づくと同時に、今度は先輩にぐいって抱き寄せられる。

今、一体何が起こったんだろうと思って隣を見上げると、怒ったような笑みを浮かべた先輩が松田を見ていて。
一方の松田は……してやったり、みたいな顔をして笑っていた。

「一応聞くけど。今、花奈になにしようとした?」
「心配しなくても、最初からする気なんてありませんって。
俺にとって柴崎は大事な友達です」

そう先輩に笑った松田が、今度は私に視線を移して「な? 北澤さんだって態度に表れるだろ?」と言う。

「え……あ、さっきの……?」

先輩に声をかけられる直前にしていた会話を思い出して、ハッとした。

『先輩はいつも平然としているから態度とかで判断するのってすごく難しそう』
私がそう言ってた時、松田はそうか?って首傾げてたけど……そういう事?

だからってこんな確認の仕方……と、ようやく正常に動き出した頭で考えて眉をしかめた私に、松田が続ける。

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