イジワルな先輩との甘い事情
「でもよかったな、柴崎。北澤さん、柴崎が俺にキスされんの嫌だって」
「え……?」
「いや、だってさ、この間、俺がキスしていいですかーみたいに冗談で言った時、北澤さん、柴崎がいいならって言ってただろ?
それ聞いて、柴崎すげーショック受けた顔してたから。それずっと気になってたんだ。
俺が余計な事言ったせいで、柴崎傷つけちゃったから」
言われてようやく松田の意図に気付いて「あ……」と声をもらすと、ニッて笑われた。
私が感じていた不安や不満を、松田が全部すくいあげて、安心だろ?って笑って吹き飛ばしてくれて……。
際限ない優しさみたいなものを感じて、胸が温かくなる。
「これで安心したろ?」
「……うん。ありがとう」
私にはもったいないくらいの松田の気遣いに、感謝の気持ちを伝えたいのに、ありがとう以外の言葉が思いつかなくてもどかしい。
せめてと、もう一度「ありがとう」って伝えると、松田は「俺も」と言って私の頭を撫でた。
「怖がってばっかいらんねーなって、柴崎見てて思えたからありがとな。
ちょっと背中押された」
少し真面目な顔して微笑んだ松田が、「まぁ、もう少しふらふら遊ぶけどなー」と言いながら背中を向ける。
「じゃあ俺はここで。またな、柴崎。北澤さんも、お疲れ様でした」
「ああ。お疲れ様」
最後に「色々ありがとう」と、ちょっとだけ気に入らないような笑顔で言った先輩に、松田が笑顔を浮かべてからぺこりと頭を下げて歩き出す。
その後ろ姿が小さくなったところで、先輩が言った。