イジワルな先輩との甘い事情


松田と別れてそのまま寄った先輩の部屋。
なんとなく数日前の甘い雰囲気を残している気がして顔が熱くなってしまう自分が恥ずかしい。

部屋に上がり、来る途中に買ったパンや飲み物を二人掛けのダイニングテーブルに並べていると、コートを脱いだ先輩が「そういえば」と話を切り出した。

「古川さん、やっぱり入居しないって。今日常務から話があった」

常務って単語に「えっ」と声をもらして、引き出しからランチョンマットを取り出していた手を止めると、先輩が「心配しなくて大丈夫だよ」と笑う。

「常務だって、俺に古川さんとの付き合いを強制する気はないんだし。
ただ、古川さんの俺への気持ちには常務も気づいてたみたいだから、残念だとは言われたけどね」
「そうなんですか……」
「常務も、わがままな子だからまぁ仕方ないって苦笑いしてたから、手を焼いてるみたいだよ。
今回の事も、強引に頼み込まれたらしいしね」
「じゃあ……告白断っちゃった事が、仕事に影響しちゃったりはしなそうですか?」

心配から思わず聞くと、先輩は、ははっと軽く笑って「それはもちろん」と答えた。

「下手にプライド傷つけちゃうと何するか分からない人だなとは思ってたから、向こうが行動に出るまでは俺も対応に困ってたけど、幸い、すぐ告白してきてくれたからね。
それを丁重に断っただけだから、本人だってそれ以上は責めようがないだろうし、例え周りに言って回ったところで相手にはされないから大丈夫だよ」
「そうですか……」
「断り方も、古川さんがどうのって事は言わずに彼女がいるからとしか言ってないから、古川さんのプライドも守られただろうしね」


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