イジワルな先輩との甘い事情
先輩を好きになったのがいつだったのか、実を言うとハッキリは分からない。
大学に入学してすぐに先輩の存在は知った。
友達もみんな『すごいカッコいい先輩がいるんだよ』って騒いでいたから、友達と一緒にいると、『あ、ほら、あそこ!』って教えてくれたりしてたし、大学内で目にする事は少なくなかった。
先輩を好きな子は周りにたくさんいたけど……その頃の私の感情は、憧れだったのだと思う。
勉強も運動もできるって噂だったし、やっぱり外見もカッコよかったし、なによりいつも穏やかで落ち着いて見えて、そこに憧れていた。
先輩の周りは、いつも雰囲気が優しかったから。
見かけられたらその日一日幸せな気分で過ごせるような、先輩が笑ってるところを見たらそれだけで嬉しくなるような、そんな存在だった。
そんな私が先輩と初めて話したのは、学食でだった。
入学して三ヶ月と少しが経った頃、教室の移動でひとりで学食前を通りかかった時、中から知らない男の人に呼び止められて。
『経営学とってる子でしょ? 俺の出席カード出しておいてくんない?』
そう言われた。
友達から聞いたり、後はドラマの中とかで、代弁とかそういうのは聞いた事があったけど……実際にこんな事を頼まれたのは初めてだったから戸惑ってしまって。
『え……でも』と眉を寄せた私に、男の人は『いーじゃん。ね』って笑った。
その手元にあるのは、スマホで。
スピーカーからは、サッカーの実況が漏れていた。