イジワルな先輩との甘い事情
『あ、バレた時とかそういうの気にしてる? 大丈夫だって。俺ほとんど出てないけど、バレた事ねーもん』
『でも、そういうのはできません』
差し出された出席カードを前に首を振ると、男の人が『頼むよー。これから後半戦だし見逃せなくてさ』と笑って、カードを押し付けて。
私が受け取らなかったから、カードはひらひらと床に落ちてしまった。
それを拾い上げて渡そうとした私に『じゃ、よろしくー』って男の人がひらひら手を振っていて……『できませんっ』と声を張り上げた時。
後ろから声をかけてくれたのが先輩だった。
『経済学の竹中先生は、講義終わってからひとりずつ目の前で署名させるよ。
だから、出席カード出したところで、署名がなければ欠席扱いになってるハズだけど……』
振り向いた先、一メートルほどのところに立った先輩が、眉を寄せて続けた。
『友達は今までそれを教えてくれなかったの?』
先輩の言葉に、男の人は『うえ、マジ……ですか?』と顔をしかめて立ち上がって。
『うわー、でも誰に頼んだかも覚えてねぇ……』と頭を抱えていた。
その後、『マジ使えねー』とぶつぶつ言いながら出て行った男の人を眺めてから、ハッとして先輩と向き合うと、にこりと微笑まれて顔が一気に熱を持った。
『あの、ありがとうございました』
『どういたしまして。でも、気を付けた方がいいよ。ああいうのは少なくないから、適当に逃げられるようにしておかないと利用される。
君みたいに押しに弱そうな子は特に』
『あ、はい。すみません……。先輩みたいに上手な嘘つけるようになれるよう、頑張ります』
竹中先生は署名させたりしない。
だから、そう言ってぺこりと頭を下げた私を見て、先輩は『バレてたんだ』って笑って。
それから私の名前を聞いた。