イジワルな先輩との甘い事情


「でも、私は和田さんに好意があったわけでもなんでもありません。
恋人がいるかどうかみたいな話になった時、曖昧に誤魔化したのだって、恋人がいるって答えたら場を盛り下げる事になって、長井工業の若社長がパーティを開いた意図に反すると思ったからで……」
「つまり、仲良く話してたのは仕事のうちって事が言いたいの?」

少し意地悪な聞き方をした先輩に、「そうです」と頷くと。
先輩はそんな私を見て、自嘲するような笑みを浮かべた。

「俺は、仕事だとしても花奈が他の男と楽しそうに話すのは嫌だし、見ていてイライラする。
男側の好意に気付いて、思わず花奈を連れ去るなんていう大人げない事も平気でするし、必要なら相手が女でも攻撃する。古川さんの時みたいに」
「あ……」
「全然完璧なんかじゃない」

先輩が目を伏せて「俺は、花奈が思うほどできた男じゃないよ」と呟くように言ったのを聞いて、何も言えなくなってしまった。
その横顔が、あまりに寂しそうだったから。

だけど、その表情に、先輩が近づいたように感じるのはなんでだろう。
そう考えて……私は今まで先輩をなんだと思ってたんだろうってハッとした。

先輩だって、完璧じゃない事なんて分かってたつもりだった。

ロボットじゃないんだから、そんな事ありえないのなんて当たり前だし。
でも、私の中で先輩はあまりにそれに近かったから……いつの間にか、先輩を勝手に違う世界に見ていた。

勝手に、違う世界にいる人だって思っていて……先輩が私を好きだって言ってくれたのだって、私が好きだって言ったから想い返してくれたんだって、私の気持ちが先にあったからだってそう思い込んでた。

先輩にだって感情はあるのに。


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