イジワルな先輩との甘い事情
「花奈が思うほど、元々遠くにいないよ」
「……はい」
「ねぇ。俺をちゃんと花奈と並べる位置に立てて見てよ。
憧れみたいな目で見られるのは嫌いじゃないけど。花奈には、同じ視線で見ていて欲しい」
思い出すのは、いつか園ちゃんが言っていた言葉。
『今までの北澤さんとの曖昧な関係のせいで、どこかで北澤さんと自分を対等に見てないとかね。
そういうのって、割と相手の方が気づくものなんじゃない?』
本当にその通りだったんだと気付いて、自分自身に呆れてしまう。
先輩は元々隣にいてくれたのに、それを私がただ遠ざけて遠慮してしまっていただけで……。
私が勝手に先輩を憧れの存在にして、勝手に遠慮して。
先輩はきっとずっと隣の場所を望んでいてくれたのに、一歩下がった場所から動かなかったのは私だ。
先輩はずっと、あの、私の間違った告白を受けてくれた時から、隣に並んでくれていたのに――。
「俺にだって感情はあるし、いつも誰にでも優しいわけでもない。仕事って頭がなければ、案外冷たい男だしね。
花奈だから優しくするだけで、紳士でもなんでもないよ」
優しい言葉が嬉しくて、じんわりと涙が浮かぶ。
照れ隠しみたいに「そういうの、男は言わないものだって言ってませんでした?」と聞くと、にっこりと微笑まれた。
「ちゃんと伝えないと、勝手に落ち込んで離れるなんて選択を選ばれちゃうからね」
「あれは……っ、だって、先輩も悪かったです」
「へぇ。俺を責めるんだ」
いたずらっ子みたいな顔して笑う先輩を、じっと見つめた。