イジワルな先輩との甘い事情
「他に聞いてる社員はいなかったから。でも……まさか戦うとは思わなかった。
放っておけばいいのに」
「だって……なんか、許せなくて。適当な気持ちで先輩を想ってるのかなって思ったら。
そんなの個人の自由だっていうのは分かってるんです。でも、それでも……相手が先輩だって思ったら、黙ってられなくて」
最後に「すみません」ともう一度謝った私の頭を、先輩が優しく撫でる。
「そう言ってくれるのは嬉しいけど、まぁ、恋愛の価値観は人それぞれだからね。
色んな考え方の人がいるし、わざわざ首を突っ込んで痛い目に遭ったりして欲しくない」
「……はい」
「でも、あの子もなかなかいい子だと思うよ。
仕事には影響させないって、なかなか言える事じゃないし。特に女の子はね」
頭を撫でる手にふわふわしていた気持ちが、急速に冷えていくのを感じた。
安藤さんが、仕事とは関係ないんだから仕事はちゃんとしましょうって言った時、私もすごいと思った。
正々堂々としている態度はもちろんだったけど……すごいと感心した一番の理由は、私はそういうタイプじゃないからだ。
私は、仕事に影響させないとは、とてもじゃないけど言い切れないと思うから。
もちろん、仕事に影響させたくないとは思う。でも、それをきっぱりと宣言できるかって聞かれたら……分からない。
だから、あんな風に言いきれる先輩が安藤さんを褒めるのは当たり前だ。
当たり前……だけど。