イジワルな先輩との甘い事情
「花奈?」
急に立ち上がった私を不思議そうに見上げる先輩をじっと見つめる。
そして。
「私も負けません。私も、仕事ちゃんとして……安藤さんとの勝負がつくまでここにも来ません」
真っ直ぐに先輩を見たままそれだけ告げて、「お邪魔しました!」と部屋を後にした。
先輩が呼んだのは気付いたけど、ぐぐってすごい我慢して振り向かずドアを閉める。
『今は先輩も私の事受け入れてくれてるけど、それだっていつ変わるか分からないし』
頭に繰り返される、私の言葉。
先輩と私は、きちんとした関係じゃない。
私の気持ちに、ただ先輩が応えてくれているだけの、いうならばボランティアみたいな関係だ。
先輩の気持ちひとつでいつ終わっちゃうか分かんないような……そんな、危うい関係。
だから。
なるべく長い間先輩の傍にいたいなら、頑張らないと。
今の曖昧な関係にあぐらなんてかいていられない。
先輩が安藤さんみたいな女の子をカッコいいと思うなら、すごいって思うなら、私だってそうなりたい。
私にない部分なら、補いたい。
先輩に……少しでもたくさん、いい想いを持っていてもらいたいから。
いつか……できる事なら、好きって言って欲しいから。
だったら、頑張るしかないんだ。頑張りたい。
駅までの道を全力疾走しながら、生保の検定の問題を繰り返し頭に浮かべた。
先輩が迷惑だって私を切り捨てるその時まで。
私は、頑張りたいから。