イジワルな先輩との甘い事情
「松田、営業は?」
「今日、献血車きてたじゃん。で、してきたんだけどさ、400抜いたらうっかり貧血起こして気絶しちゃって」
「えっ、大丈夫なの?」
「あーもう全然。すぐ目覚めたし体調だってピンピンしてるのに、一度貧血になると30分とか横になって看護されないといけないみたいでさー。
戻ったら課長が念のため今日午後の営業は休めって。車運転して何かあったらマズイってさ」
「あ、そっか……そうだね」
「だから暇持て余して、とりあえず過去の取引内容とか見て掘り下げられるとこないかなーって探そうかなって思って書庫きたら、柴崎がいたからそれで。
柴崎は何してんの? 伝票整理?」
床に置いてあるふたつの空の段ボールを見て、松田が聞く。
「うん。古い伝票をまとめて第一倉庫に移動させないと、新しいのがもう入らなくなってきてるから」
「ふーん……ああ、上の方だから届かないのか。丁度いいし手伝ってやるよ」
「ううん。いいよ。松田には松田の仕事があるんだし」
「大丈夫だって。丁度暇だったんだし。デスク戻ってもみんな営業出ちゃって誰もいなくて寂しいし」
ははって笑う松田が脚立をガタガタと運び出すから、いいのかな?と思いながらもお願いする事にする。
実際脚立を使っても一番上の棚は届くか微妙なところだったから、助かった。
午後2時。通常なら松田の言う通り営業は外に出ているから、社内にいる社員の数が、ぐっと減るこの時間帯、オフィスは静かだ。
小さめの窓から入り込む日差しが、埃をチラチラと浮かび上がらせていた。