イジワルな先輩との甘い事情
スッと並んだ棚の一番奥に預金課用スペースがあるから、そこの空いている場所に段ボールを置いた。
さすがに重かったのか、松田が「ふー」と息を吐いて背伸びをする。
「ごめんね。でも、助かっちゃった。ありがと」
「やー、これしき全然。それより戦いは順調か?」
返ってきた〝戦い〟の言葉に、少し苦笑いを浮かべて首を傾げる。
「どうだろ。なんか……最初はただ先輩を渡したくないって一心で燃えてたんだけど、ふと冷静になって色々考えてるうちに、戦ってていいのかも分かんなくなっちゃって」
「なんで? 先週会った時は、負けたくないって息巻いてたじゃん」
「負けたくないとは今でも思うけど……でも、だからって私と安藤さんが戦うのって違うんじゃないかなって。
そもそも、それぞれが先輩とどうにかなりたいなら、先輩に対して何か行動するべきなんだよね。
なのに、それをする前からライバル同士で戦うなんて、安藤さんの可能性を私が潰してるだけだなって」
「えー、でも女ってそうやってライバル蹴落として男手に入れる生き物じゃん」なんてケロッとした顔で言う松田に笑う。
「そういうのもあるかもだけど。なんか、そんなのおかしいよ。
好きな人がいるのに、その人相手に頑張る前にライバルと戦わなくちゃなんて。
私が彼女なら、そういう戦いもありなのかもしれないけど……違うなら、そんな戦い必要ないって思ったの。
選ぶ権利は先輩にあるんだから。どっちが勝ったとか関係なく、先輩が選ぶべきなんだよ」