イジワルな先輩との甘い事情
負けたくないって一心で勝負に乗っちゃったけど……そんなのおかしい。
勝った方が、なんて、エゴもいいところだ。
選ぶのは先輩で、先輩の前に立つための勝負なんて必要ないんだから。
安藤さんが先輩の前に立つのを、私が邪魔する権利なんてない。
……そう、思うのに。
「なのに……私以外、見て欲しくないって思っちゃって……」
「ほんと、ダメだなぁ」って苦笑いを浮かべて言うと、松田は私をじっと見た後、「全然だろ」って笑った。
「そういうもんじゃん。まぁ、人によって価値観色々なんだろうけど、好きなヤツに自分だけ見て欲しいなんて普通だろ。
柴崎なんか、もう少しで手が届きそうな場所にいるんだから、そこで欲張んなきゃ嘘だし」
「だから大丈夫」と、軽い調子で言う松田に……少し気が抜けてから、ふっと笑みがこぼれた。
軽い調子に救われた気分だった。
「そうかな」
「そうだよ。だから元気出せ」
別に落ち込んでいたとかではないんだけど。
松田と話しているうちに、心の中のもやもやが晴れて軽くなったから、自分では意識していないだけで少し元気をなくしてたのかもしれない。
先輩が好きなくせに、安藤さんの事まで考えようとするからキャパオーバーになって悶々としちゃうんだ。
安藤さんがどうとかそういう事じゃなくて、私がちゃんと先輩を好きで、全力でそこを頑張ればいいだけの話だったのに。