イジワルな先輩との甘い事情
「それに柴崎は別に、安藤さんを邪魔してるわけじゃないし。
つーかさ、安藤さんって本当に北澤さんの事好きなのか?」
「え?」
なんで?って聞くと、松田が頭の後ろで手を組みながら片眉を上げる。
「聞いてても別にそんな感じしないから、なんとなく。
だって本気で狙うなら、柴崎に構うより先に北澤さんにアプローチかけにいくんじゃないか?
柴崎が彼女だっていうんなら話も別だけど、違うんだから柴崎にお伺い立てる義理もないし」
「……それはそうだよね」
「柴崎といっくら勝負して連勝したところで、北澤さんにはそういうの全然見てもらえてないわけだし無意味じゃん」
確かに……と思って眉を寄せる。
『どっちが相応しいか、勝負しましょう』
そう言ってきたのは安藤さんだけど、私とそんな勝負したところで北澤先輩には届かない。
だったら直接北澤先輩のところに行った方が意味があるし、頭のいい安藤さんがそれに気づかないとも思えない。
わざわざ自分から、社外では会ったりしないなんて事まで決めてたけど、それじゃあ北澤先輩に近づく時間が限られすぎる。
なのに……なんでだろう。
「まぁいいけど。他に何か手伝う事ある?」
「あ、ううん。もう大丈夫。ありがとね」
慌てて顔を上げると、「いや、暇だっただけだし」ってニッて笑った松田が歩き出す。
私も後ろに続こうとして……でも、預金課で使っているスペースの乱雑さが目を引き足を止めた。