イジワルな先輩との甘い事情
「私、ここ整理してから行くね」
「おう。じゃあまたなー」
松田に笑顔で言ってから、無頓着に置かれている段ボールに手をかける。
いくらスペースが余ってるとはいえ、これじゃああんまりだ。
せっかく段ボールにまとめたなら、綺麗に並べて置けばいいのに……とぶつぶつ思いながら、結構重たい段ボールを並べていると、ドアが開いて、またパタンと閉まった音がした。
松田は少し前に出て行ったから、違う人かな。それとも松田が戻ってきたのか。
少し気にはなったけど、ここはすべての課が使っている第一倉庫だ。誰が出入りしてもおかしくはない。
いくら書庫から邪魔者扱いされた古いものしかなくても、仕事上、その資料目当てに調べにくる事は割とある。
だから、特には気にしないで段ボールを移動させていたけど、コツコツと床に響く足音が真っ直ぐにこっちに近づいてくる事に気付いて思わず手を止めた。
……誰だろう。こっちにくるって事は預金課の誰か? 安藤さん……?
ここは社内だし、社内にいるのは当たり前だけど社員のみだ。不審者なんかいない。
けど、それを分かっていても、こう薄暗くてやたら広い密室ってなるとなんだか怖くて……。
怖さからドキドキと不穏な音を上げて動く胸の前でギュッと両手を握りしめた時、私よりも一回り以上大きな身体が覗いた。
びくっと肩が自分でも驚くくらいに跳ねて縮こまった私に、その人が「花奈?」と声をかける。
耳に届いた響きのいい声に、そろりと視線を上げると……北澤先輩が私を見下ろしていた。
私が驚きすぎたからか、不思議そうな顔をしているから、慌てて口を開く。