イジワルな先輩との甘い事情


「北澤先輩……っ、あの、すみません……。ここ、広くて暗いから、ちょっと怖くなっちゃって……」

謝ると、先輩は「いや……驚かせたならごめん」と言ってくれたけど……笑顔がない。
先輩はいつでも優しく笑ってくれるのにどうしたんだろう……。珍しいな。
そう考えてから、でもここ会社だ、と気づく。

いつも会うのは先輩の部屋でだから、会社での先輩とはこんな風に話したりする事ってそうそうない。
仕事中の先輩はもしかしたらこんな感じなのかな。
融資管理課ってすごく難しい仕事だっていうし、真剣な顔して仕事してるのかも。

そう思って私もシャキッと背筋を伸ばしてから、先輩のスーツに目が止まる。
部屋でワイシャツ姿でいる事はあるけど、こんな風にネクタイ締めてスーツ着てるところをこんな間近で見るなんて初めてだ。

……カッコいいなぁ。
そんな今更すぎる事を呑気に考えていた時、先輩がぐいっと私の肩を押した。

「え……あ……っ」

後ろによろけると、すぐに背中に何かがあたって……それが壁だと気づく。
服を通してひんやりとした冷たさが背中に伝わるから、驚いて見上げるとすぐに先輩と目が合った。

片手を私の顔の横につく体勢に、先輩の支配下に閉じ込められたみたいでドキドキする。



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