イジワルな先輩との甘い事情


少し不貞腐れながら見ていると、先輩が笑いながら「マゾじゃないの?」なんて聞くから、すぐに言い返す。

「違います……! 私は別に、先輩に意地悪されたり放置されたりして喜んでるわけじゃありませんっ」

ハッキリと言うと、先輩が「ふぅん」って呟きながらマジマジと顔を見てくるから、居心地が悪くなる。
先輩が浮かべているのは微笑みなのに……いじめられてる気分になるのはなんでだろう。

見つめられてるだけなのに、どんどん追い詰められてる気分になる。
コーヒーの香りに包まれた部屋。灯る、オレンジ色のダウンライト。

色を帯びた雰囲気に、少しずつ熱が上げる。

「意地悪されるの、嫌なんだ」
「嫌ってわけじゃ……ないです、けど」
「でも、放置はお互い様じゃない? 花奈だって、安藤さんとの戦いに夢中で俺を放っておいたし」
「でも、それはちゃんと先輩にも話したし……」

伸びてきた先輩の手が頬をなぞり耳から首筋に落ちるから、言葉を邪魔される。
なぞられるだけですくむ身体をぶるっと震わせると間近からくすっと笑われた。

震える空気に、鼓動が速度を上げる。

「花奈は俺に、どうして欲しいの?」

俯いたせいで流れ落ちていた髪を耳にかけてくれた先輩が、露わになった耳に直接声を注ぎ込む。
低く響く声に、胸が震えて声が上手くでない。

ぎゅっと目をつぶったまま俯いていると「花奈?」と優しく催促されて……その声にさえ愛しさを溢れ返しながらそっと口を開いた。

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