イジワルな先輩との甘い事情
先輩が今、古川さんとふたりで部屋にいるなら、直接インターホンを押すのはマズイ気がして。
でも、だからって今このまま何もしないで帰ってまた後日、なんて切り替えられるほど器用でもなければ余裕もなかったから。
少し考えた後、鞄からスマホを取り出して……先輩の番号を呼び出した。
電話なら、先輩にも出るか出ないか決められる。
出るにしたって、席を外して古川さんには聞かれないようにする事だってできる。
そう思いながら、震える手でギュッとスマホを握りしめて耳に当てるとコール音が聞こえた。
一回、二回……と数えて、三回終わったところで、コール音が途絶える。
代わりに聞こえた『花奈?』っていう優しい声に、胸が張り裂けるかと思った。
私は、何度先輩に名前を呼んでもらっただろう。
そう思っただけで涙が浮かんだ。