イジワルな先輩との甘い事情
ちゃんと目を合わせて言いたかった。
顔を見たかった。
先輩の顔なんか見たら、泣いちゃってとてもじゃないけど上手くなんて話せないだろうけど……それでも、そうしたかった。
だけど、先輩にそれを拒否されたら私からは何もできない。
当たり前だ。私の一方的な想いなんだから。
それを、分かってたハズなのに……。
開けてもらえないドアを前にして、それを思い知った。
私は結局、傍にいたって先輩のドアの外にしかいなかったんだ。
先輩の気持ちの中に入り込めた事なんて……なかったんだ。
お願いして傍にいさせてもらえたって、そんなのただの私の自己満足だ……。
同じ場所にいるのに会えない事実に、静かに涙が頬を伝った。
いつまでもエントランスにいるわけにはいかなくて、次から次へと落ちてくる涙を拭いながら外に出る。
傾き始めた太陽は柔らかく雲を照らしていて……それがなんでだか悲しかった。
吹きつける冷たい風も、それに揺れる木も、青い空も。見えるモノ全部が悲しい。
見えるモノ、感じるモノ、周りのモノ全部に攻撃されているような痛みが身体中を包む。
そうなる前からとっくに私は満身創痍なのに、これでもかってほどに現実を突きつけられて、動こうとしない足を引きずるようにして歩いた。