イジワルな先輩との甘い事情
ボロボロ溢れる涙が頬を伝う前に松田の服に吸い込まれる。
ひっく、って出そうになる声を堪えながら、それでも漏れる泣き声が冷たい空気に混じり込む。
松田は、泣く私をただひたすらぎゅーって抱き締めてくれていて……まるで子供みたいな慰め方だなと思うと、ふっと笑みがこぼれた。
「なんだよ、笑うなよー」
すぐに気付いた松田に言われて、「ごめん」と声にしようとした瞬間。
腕を強く引っ張られて、驚きから身体がすくんだ。
松田かと思ったけど……松田は私と同じように驚いた顔してこっちを見ていて。
その視線の先には、北澤先輩が立っていた。
掴まれた腕の強さと熱さ……そして、ここにいる理由に戸惑う。
なんで、ここにいるの……?
だけど、その疑問を口にするよりも先に、北澤先輩が松田に聞いた。
「今、花奈に何してた?」
いつもよりも低い声に問われた松田は、驚きを表情から消して真面目な顔をして答える。
「泣いてたから抱き締めてただけですけど。で、泣き止んだらキスでもしようかなーって」
「泣いてる女を慰める時の鉄板でしょ」って、いつもの調子で言う松田に、腕を掴む先輩の力がまた少し強くなったのが分かった。
痛いくらいの力で掴まれて、困惑する。
黙っている先輩に、松田が「してもいいですか?」なんて、冗談を言ったりするから余計に。