イジワルな先輩との甘い事情
「花奈?」
古川さんと鉢合わせなんて嫌だと思うと動けなくて。
先輩に腕を引かれたけど、ぐぐって立ち止まっていると、小さなため息をつかれた。
かすかな音に、面倒くさがらせてしまったと、自己嫌悪したけど……慌てて見上げた先で、先輩は優しく微笑んで私を見ていた。
「じゃあ、玄関まででいいから。ここで待ってて。送っていくから」
そう言われて、ためらった後遠慮がちに入った玄関に、古川さんのショートブーツはなかった。
もう帰ったのかな……。
でも私は古川さんがマンションに入ってから、エントランスかマンション前にずっといたし、出て行ったところは見なかった。
だから、恐る恐る「あの……古川さん、は……?」って聞いた私に、上着を取りに行っていた先輩は困り顔で微笑んだ。
先輩が持ってきた上着を見て、今更そういえば先輩、上着着てなかったんだと気づく。
「さっき……なんで外にいたんですか?」
まだ古川さんは?っていう質問の答えはもらってなかったけど、新しく浮かんだ疑問をそのまま口にすると先輩が答えてくれる。
「花奈の様子がいつもと少し違う気がしたから気になって。そしたら松田くんに抱き締められてるから驚いた」
ふっと笑う先輩は少し怒ってるようにも見えたけど……そのまま続けた。