イジワルな先輩との甘い事情
「古川さんは……?」
二度目の問い掛けに、先輩がやっと答える。
「彼女の事は、花奈には関係ないって言ったハズだよ」
再び突き放されて……また頭がぼんやりと霞みだした気がした。
自己防衛なのか、視界までもがぼやける。
「関係ないって、なんで……?」
俯くと、涙がぽたりとタイルに落ちた。
誰もいないような静かな先輩の部屋に、「花奈?」って心配そうな声が落ちる。
分かってた。
正しいのは先輩で、間違ってるのは私だ。
先輩は私に古川さんとの事や、他の女の人の事を話す義務なんてない。
本当だったら……私の片思いに付き合う義務だってないのに、優しいからそうしてくれてるだけなんだから。
だから、関係ないって言われて悲しいだとか、そんな風に言わないで欲しいだとか、そんなの駄々こねてるだけだって。私のわがままだって……分かってたけど。
でも、だって……。
先輩が、好きだから――。
ぐって顔を上げて先輩を見つめる。
涙を溢れさせる私に、驚きの色を浮かべる瞳を見つめながら、想いを告げた。
「好き……」
驚いていた先輩が、私の言葉に困ったように微笑む。
「うん。知ってる」っていう優しい声が、また涙を誘った。
「先輩が、好きなんです……」
「うん」
「好き……っ」
泣きながら何度も繰り返す私に、先輩は優しく頷いてくれていたけど……三度目の好きを口にした後、眉を寄せた。
怒ってる顔じゃない。
不思議そうで……心配しているような、そんな顔だった。