満月幸福理論
そんなのだめよ。
あなたを照らしたら、あなたに二度と会えません。
もう一度いうけれど、
彼女の仕事は照らすこと。
生きとし生けるものを照らして、
与え続ける希望の光。
そんな彼女が初めて断った仕事は、僕を照らすことだった。
僕は希望の光をもらえない。
だから絶望の淵にいる。
だけど、君がいるのなら。
どこにいたって天国さ。
────あなたを幸せにしたいの。
ある日彼女は泣きながら
ぼくに向かってそう告げた。
非情すぎるその言葉。
幸せなんて、人それぞれで
幸せなんて、形にないくせに
ぼくらは幸せのかたちを探し続ける生き物だから
彼女はぼくに“しあわせ”を与えるために
光を───当ててしまったんだ。
あれからもう、何年たったんだろう。
何万年の時を遥かに超え、僕は光輝く月になった。
僕が君に会おうとしたら、君はどこかに行っちゃうし。
僕が諦めて帰ったら、今度は君が現れる。
永久の鬼ごっこでもやるつもりかい?
別に、要らなかったんだよ。
俗に言う幸福なんて。
僕が欲しいものは、君。
その笑顔一つで良かったんだから。
【Fin】