君待ち人
彼の心に踏み込む勇気なんて、持ち合わせていない。
彼を辛くさせるだけだ。
気になったからって、聞いちゃいけないことくらいある。
全部承知の上で質問したくせに、もう後悔してる自分がいる。
どうして私は、彼を、自分自身を、困らせることしかできないんだろう。
どうせなら、無神経だって嗤ってほしい。そう望むこそすら、自分勝手だ。
「……約束をした時の、夢だったよ」
凪雲先輩はもたれかかっていた木に手のひらを添えて、おもむろに見上げた。
彼の横顔は、いつもより辛そうではない代わりに、ひどく穏やかだった。
「今度は、行かないでくれたんだ」
柔らかな口調でそう言った凪雲先輩に、乾いた唇を引き結んだ。
届いていたんだ……。
目頭が熱くなり、鼻の奥がツンとした。
どうしようもなく泣きたい衝動に駆られた。
誰が、とか。
どういう意味なのか、とか。
そういうことは関係なく、ただただ嬉しくて。雨音すら気にならなかった。