君待ち人
「そう、なんですか」
「ああ。いつもよりは、いい夢だったよ」
朗らかな低音が、雨音をかき消すほど私の耳を通り抜ける。土砂降りの雨にもかかわらず、晴れているような気さえしたんだ。
こぼれてしまいそうな涙が、濁った雨粒と混ざり合うのが嫌で、凪雲先輩にバレないようにこっそり拭った。
「晴れましたか?」
凪雲先輩の心は。
そう付け足さなくても、きっと伝わるだろう。
私が言いたいことも、聞きたいことも。
「……少しだけ、晴れたよ」
数拍の静寂を破って、なめらかに返事をした。
今日の空はいつ見ても、灰をかぶった色をしている。コバルトブルーは、どこにも見当たらない。
だけど、凪雲先輩の心には、青い光が差し込んでいる。
私も同じ光に染まったら、なんて淡い幻想を抱きながら、制服越しに耳を澄ましていた。雨音にも負けない、自分の鼓動の音に。