君待ち人





「桜、最近どう?噂の初恋の彼には会えた?」


「会えてたら、真っ先に報告してるよ」




緋衣ちゃんはどうやらココアメロンパンが気に入ったらしく、ずっとニヤけたままだ。


反対に、私はため息を吐く。



初恋の男の子を信じようって、信じたいって思ってるけど。


やっぱり来ないのかな?

なんて、消極的な思考が頭の隅を巡ってしまう。



約束したのだって、まだ幼い六歳。


あれから十年も経ってる。



会いに来てほしいし、また会えると信じてる。だからこそ、ネガティブな「たられば」が過る。


私の信頼が、最初から薄っぺらいハリボテだったわけではないと、初恋の男の子と再会した時に証明したいのに。





もう一度長く、深いため息をついて、肩を落とした。


待つことは、辛くない。けれど、不安が積もって、期待を吹き飛ばしていく。



私も甘いメロンパンを食べれば、約束に絡みつく苦味を忘れられるのだろうか。





「そんな暗い顔してたら、初恋の彼が会いに来ても『やっぱやめようかな』って戻っていっちゃうよ?」



「えー、それは嫌だぁ」



「ならもっとニコッとしてさ、笑顔で待ってなよ。大丈夫!桜は可愛いし、会いに来ないわけがない!」



「ふふっ。何それー」




緋衣ちゃんは人差し指で私の口角をグイーッと上げ、元気よく励ましてくれた。



嘘でも笑えば、それがいつしか本物になればいい。


笑顔には、測定不能なパワーがある。


ため息を吐くと幸せが逃げていく、とよく言うけれど、笑顔になると幸せが舞い込んでくるような気がする。あくまで、気がするだけで、実際はどうかわからないけど。



それでも……ほら。

緋衣ちゃんの指が離れても、私、笑ってる。


緋衣ちゃんのおかげだよ。ありがとう。



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