君待ち人
彼の涙を拭えるくらい。
彼の傷を癒せるくらい。
曇り空に透かした彼の心を、ひだまりでいっぱいにしたい。
あわよくば、私が。
公園にやって来た。ベンチに座っている凪雲先輩は私に気づいて、軽く片手を上げた。
ベンチまで歩いていく。
正面まで近寄れば、凪雲先輩は柔らかく破顔した。
「今日は来ないと思った」
「来ますよ。私は初恋の彼が来るまで、ずっとここに来ます」
瞬間、強い風が吹き、緑の葉に彩られた大きな木が、揺れた。
私の細い髪も、凪雲先輩のサラサラな髪も、なびく。
一方向に吹き荒ぶ風は、ひとつの道を示しているようだった。天から注がれた光だけを凝縮させた、闇のない一本道を。
きっとその光は、私が神様に望んだ、たったひとつのもの――勇気だ。
「あなたの隣で、ずっと」
風が止む前に小さく、誰にも聞こえないように紡いだ。
当然その独白は凪雲先輩に届くことはなく、風が止んだと同時に消えていった。