君待ち人
しーくんは微笑んでいた。無理しているのがバレバレだ。
余計に複雑な気持ちになる。いっそう「大好き」というたった三文字を贈れなくなる。
「俺のこと、待っててくれてありがとな」
「しーくん……」
「あーあ!なんで俺、戻った時すぐ自分のことを桜ちゃんに明かさなかったんだろ」
私に背を向けて、やけくそ気味に独り言を吐き捨てた。
さっきまでの切なさから吹っ切れたような、空元気に似た陽気さが溢れる。
「そうしていたら、桜ちゃんは俺のものになったのにな」
私の涙は気づいたら止まっていた。
強まる風で乱れた髪を直している余裕など、この場にはない。
「もし四月に俺のことを教えてたら、お前の彼氏になってたんだろうな」
「え?……何それ。どういう意味?」
そんなのまるで私が……。
震えるこの手じゃ、白河くんの腕を掴んで引き留めることもできない。